なつこのはこ(創作のはこ)

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「えにし~縁~」

えにし~縁~ その7

  えにし~縁~ その1
えにし~縁~ その2
えにし~縁~ その3
えにし~縁~ その4
えにし~縁~ その5
えにし~縁~ その6
(つづき)


 彼に連れられて行ったのは、近くの駐車場だった。
 止めてあった車の後部座席に私を座らせる。その窓はスモークがかかっているから、外から見られる心配はない。
「後ろのドア、チャイルドロックがかかってるから、開かないよ」
 チャイルドロック?
「休みの日に、甥っこを乗せるからね。トランクには、チャイルドシートもあるよ」
 世間では二枚目俳優で通っている彼とチャイルドシートが結びつかなくて、思わず笑ってしまう。
「ようやく笑ってくれた」
 バックミラーで見えていたのがわかって、恥ずかしさに俯いてしまう。
「あ、最初に言っておかなくちゃ。俳優だけど、あなたの前では演じてないからね。素の俺だよ。これだけは信じて」
 今更だった。彼の笑顔は本物なのだから。
「信じる」
「良かった。それだけが心配だったんだ」
 素の彼の表情は、ドラマで見るよりも少しだけ若く見える。
 それは自分の年齢との差を目の前に突きつけられる、哀しいものではあったけれど。
「ほんとは助手席に座って欲しかったけど、後ろもいいね。ミラーでいつでも確認できる」
 そう笑いながら、彼は運転を続けた。
「これで手をつなぐことができればいいんだけどな。もっと小さい車にすればよかった。あなたと手をつないでいると、気持ちがいいんだ」
 なんという車種かは知らないけれど、確かに中は広い。
 どこに行くとも決めていない、ただのドライブ。隔たりを埋めるかのように、互いに話し続ける。
 どれくらい走っていただろう。高速に乗った時、家のことを思い出して、ほんの少し胸が痛んだ。けれど、自分の気持ちを決めた今、その痛みを捨てることに何のためらいもなかった。
 休憩のためにサービスエリアへ入った頃には、もう日が暮れていた。辺りは暗く、彼と私は手をつないで、人の少ない場所にあるベンチへ腰掛けた。
 声でばれてしまうといけないから、小声で話す。わざと耳元で囁くから、やめてと言いながらふざけ合っている姿は、よくあるカップルのいちゃつきにしか見えないだろう。
 ずっと手はつないだままだった。
 話は尽きなかった。お互い、これまでどんな人生を送ってきたのか。普段、どんなことをして過ごしているのか。犬を飼っている彼にそのことを尋ねると、楽しそうに話してくれた。
 車の数が減ってきて人通りが絶えた時、軽くついばむようなキスをされた。さすがにそれには驚いて、離れようとした。そんな私を彼は抱きしめる。
 暗闇が私たちを隠してくれる。私は彼の胸に身体を預けた。
 彼の心地良い声と温もりに、ただ酔っていた。本当に楽しくて、嬉しくて、このままこの時間がずっと続いて欲しい、そう願った。

 そんな時だった。
 彼の携帯音が暗闇に響いたのは。
「出ないの?」
 とっさに、マネージャーからかもしれないと思った。売れっ子の彼に、自由な時間がそうそうあるとは思えない。
「今はいい」
 電源を落とそうとした携帯を取り上げる。
「駄目よ、出なくちゃ。そうでなければ、あなたのことを信じてくれた人たちを裏切ることになる」
 そう、これを逃避行にしてはいけないのだ。これからのために。
 彼は頷くと、携帯を受け取った。やはり仕事の話のようだった。

 電話を終えた彼は、私を強く抱きしめてくれた。
 今だけは現実から逃れたかった。せめて家に戻るまでの数時間だけは。
 長い指が、私の顎にかかる。
 見上げた彼の顔は、涙が出そうになるほど優しかった。
 近づいてくる気配に、私はそっと目を閉じる。
 唇が重なり、それは次第に互いの息を奪うような深いものになっていく。
 息を切らしながら、唇を合わせたまま彼が囁く。
「愛してる」
 涙が、つうっとこぼれた。
 その涙を、彼が優しく唇で吸い取ってくれる。
「私も」
 この時、私たちは、とても幸せだった。

 嵐はやって来た。
 主人は、離婚に同意してくれなかった。親からは、不倫などしてと怒鳴られた。実家へ戻ることはできず、ホテルに泊まるお金などない私は、家を出ることもかなわなかった。
 早く離婚したかった。主人に責められる毎日は地獄だった。
 彼が公言したことで、リポーターたちに追われることになった。熱狂的なファンからの嫌がらせも受けるようになったという。どうやって調べたのか、私の家にまで押しかけるようになり、外へ出ることもできなくなってしまった。
 執拗なファンからの脅しに、どこまでもつきまとうリポーターたち。
 私たちは会うこともままならなくなった。
 私が結婚していることで、彼はCMを降板させられた。決まりかけていた新ドラマも、どうなるかわからないらしい。
 どんなに気持ちが通い合っていたところで、二人の間にある障害は大き過ぎる。
 何もかも、私のせいだ。
 でも、彼は世間には屈しないと言ってくれた。
 私はどこまでも彼について行く。あの日友人の前で、そう決めたのだから。


      (おわり)


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