なつこのはこ(創作のはこ)

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「えにし~縁~」

えにし~縁~ その2

  えにし~縁~ その1
(つづき)

 あれだけ細谷琳の話をしておきながら、言えなかったことが一つだけある。
 自室に飾ってある大きなポスターのことだ。紳士服の広告で、それを貰いたいがために主人の服を買った。さすがに恥ずかしくて、そのことだけは彼女に言えなかった。
 何故だろう。お互い、応援している歌手のポスターを自室に貼っている。彼女はそんなことでからかったりしない。
 なんだか自分の気持ちがわからない。
 部屋干しの除湿器の音をうるさいと思いながら、窓から見えるうっとうしい梅雨空を眺める。テレビから聞こえてくるのは、もちろん出演作品だ。
 そのせいで電話の呼び出し音が鳴ったのも、始めはドラマの音声だと思った。
 そうではないと気付いて、ナンバーディスプレイに浮かぶ名前を見る。仕事が立て込んでいる筈の友人だった。息抜きでもしたくなったのかな、と思いながら受話器を取る。
「きてみる?」
 第一声がこれだった。主語がないから、なんのことやらさっぱりわからない。
 いつもとは違い、こういう話し方をする時の彼女は茶目っ気たっぷりで、何かをたくらんでいる。
「腰くだけになってみる?」
 最近自分が使った言葉だな、と思い出す。
「肉声、聴かせてあげる」
「えっ」
 まさか・・・、細谷琳?
「知り合いがスタッフの一人なの。向こうの都合もあるからどうなるかわからないけれど、アポ取れるよ」
 彼女は仕事柄、顔が広い。中には有名人もいるのだけれど、芸能界まで知り合いがいるとは思わなかった。
 余りのことに呆気にとられた私は、彼女の言葉の意味を理解するのにかなり時間がかかってしまった。

 けれど、無意識に返事をしていたようだ。彼女の声が遠くなったことに気付いた時、受話器の向こうで誰かと携帯で話しているらしい様子が伺えた。
 慌てて前言撤回しようとした声は届かず、彼女は携帯を切って、私に言った。
「・・・オッケーだって。ちょうど明日、会社で打ち合わせがあるから来てもいいって」
「あし、た?」
 そんな簡単に会える相手ではない。ただのファンが、いきなり会えるなんてあり得ない。
 でも、彼女はそんなことで嘘をつく人間ではないのだ。よくあるなりすましで、騙されるような人でもない。本当に細谷琳という俳優とのつながりがあるということだ。
 あの時彼女は、一方的に話し続ける私に呆れていた。それでも、知り合いに話をつけてまでアポを取ってくれたんだ。
「そう、明日。良かったね。一緒に行くから安心して」
 ここまで言われて、やっと理解した。
 頭の中が、真っ白になった。


   (つづく)



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