なつこのはこ(創作のはこ)

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「月にひとつの物語」

「月にひとつの物語・如月」

  「昔々のお話」番外編です。

 大事な人が先に逝くのは、何もこれが初めてではない。
 自分を育ててくれた母。
 親しかった友。
 愛した女たち。
 子どもたち。
 それなのに、たった1人の女の死が、こうも胸を苦しくするとは思いもしなかった。
 確かに特別な女ではあったけれど。
 不思議な縁を持った女ではあったけれど。
 おかしなものだ。思い出すのが、こんな言葉だなんて。
『カヤなんて、大っ嫌いっ』


 雨のせいで、子どもたちが家の中で騒いでいる。
 俺は、ぼんやりと子どもたちの顔を眺めていた。ナウラが産んだ子もいるのに、その中に彼女の面差しをみつけることはできなかった。
 こんなに早く逝ってしまうのなら、もっと一緒にいればよかった。外回りの仕事など、俺でなくてもよかったんだ。家を何日も留守にして、あいつを独りぼっちにさせたのに、寂しいなんて一度も言わなかった。意地でも言うもんか、と虚勢を張っていたのはわかっていたのに、そんな姿を見ているのも楽しくてからかってばかりいた。
 たった160年。一緒に暮らしたのは、それだけだ。
 長命の種族だから、200年でも300年でも生きる。そんな風に思い込んでいた迂闊さを、俺は悔やんだ。
「…今頃は生まれ変わっているのかもしれないな」
 ツユチカのそんな独り言のような言葉に、俺は、はっとした。
 ナウラは、女の腹から生まれている。天界からそのまま下りてきた自分やツユチカとは違うのだ。人として生まれてきたのなら、人の魂を持ち、人として輪廻を繰り返すことだってあるだろう。
 顔を上げると、ツユチカと目が合った。
 男というには綺麗すぎる整った顔が、微笑んでいた。
 俺は笑顔を返すと、家を飛び出した。降りしきる雨の中、ひたすらに走り続けた。


 ナウラがナウラとして生まれる以前、彼女は天界で暮らす天女だった。ナーリアというその名を付けたのは、俺だ。その時は特別に親しかったわけではない。つがいになるか、という話もあったが、結局はそうならなかった。
 ナーリアとナウラの気は、同一人物といってもいいほど、よく似ている。ナウラが生まれた折り、すぐに彼女だと俺にはわかった。たとえ生まれ変わっていても、俺ならみつけられる。いや、俺にしかみつけられない。
 古き奈良の都。長岡の都。新しい京のまち。俺は、彼女の気を探して、あちこち歩き回った。
 すぐに、みつかる。
 そう思ったが、捜索は難航した。
 絶えず人が入れ替わり、死人も多く、まつりごとも不安定な都は、それ自体の気も落ち着かない。そんな中で、覚えている筈の彼女の気を探すのは、考えていた以上に大変なことだった。
 ナウラの時は、特異な力のお蔭で強い気を持っていたが、生まれ変わって、ただの人になってしまったのだろう。雑多な弱い気の集まりの中から根気よく探して、よく似た気をみつけると確かめに行く、という日々だった。
 そのどれもが空振りに終わって、虚しく時は過ぎていった。
 俺はだんだんと気弱になって、都ではないところに生まれていたら、二度と会えないのではないか、と思い始めていた。


 ツユチカが命を落とし、カルラが自分を見失った。前回とは違い、もう彼女を救う手だてはなかった。俺自身、気持ちは痛いほどよくわかった。反面、カルラのようにならない俺は、ナウラへの想いがそんな程度だったのかと、だから生まれ変わった彼女をみつけられないのかと、自嘲するばかりだった。
 ところが、カルラは自分を取り戻した。どんな縁があったというのだろう。カルラは、男と暮らし始めた。
 人というのは、そんなものなのだろうか。ナウラも生まれ変わってしまえば、俺のことなど忘れて、他の男を愛しく思うのだろうか。
 ナウラの生まれ変わりを探す時間よりも、仕事をしている時間の方がずっと長くなった頃。久し振りに、俺はナウラとよく似た気をみつけることができた。
 期待しても失望するだけだ。
 だから、期待はしなかった。
 京にある大きな左大臣邸。
 その奥まった場所へこっそりと入り込んだ俺は、次第に近付く懐かしい気に、彼女だと確信した。逸る気持ちを抑えながら、慎重に居場所を探り当てる。
 女たちが集まる中に、彼女はいた。裳着を終えたばかりの12、3歳といったところだろうか。小さな姫君の侍女、というより遊び相手のようで、お転婆な姫君に振り回されている。そんな姿がちょっと意外で、俺は少女の姿を目で追った。 
 確かにナウラの面影がある。子どもたちにはみつけられなかった、彼女の面影。人の生まれ変わりとは、姿形まで似てくるものなのだろうか。
 みつめていると目頭が熱くなって、今すぐにでもこの腕に抱きしめたいという衝動を抑えるのが大変だった。
 侍女といっても貴族の娘である以上、むやみに男の前に姿を現さない。彼女もこの屋敷へ来る前は、親兄弟や親族くらいしか顔を合わせたことはなかったろう。
 俺はどうやって接触を図ろうかと思案していると、彼女と姫君の前に、カルラが現れた。
 俺は心底驚いた。カルラの後を追い、左大臣邸を出たところでつかまえる。
「どうして教えてくれなかった」
 カルラは、彼女がナウラの生まれ変わりだとは気付かなかったのだという。
「姫さまが面白い子なの。でも、あの侍女が? 随分と普通の子に見えるけれど」
 確かに、どちらかといえばあの姫君の方が、ナウラに似ているだろう。
 カルラを通して出会いを作ることも考えたが、いずれ手元へ引き取れるようにするには、彼女の叔母に近付く方がいいと判断した。
 そんな根回しをしているうちに、夏がやってきた。
 暑さと共に、京のまちを”もがさ”が襲った。短期間で、大勢の人があっけなく死んでいった。
 その中に、彼女がいた。
 まだ、13歳だった。
 彼女は、俺のことを知らないままだった。
 またしても、俺は、彼女に置いていかれたのだ。
 唯一の救いは、彼女が誰かに見初められる前に逝ってしまったということだけだった。


 もう、たくさんだ。
 大切な人に、先に逝かれるのは。
 彼女は、また生まれ変わるだろう。いつ会えるかもわからずに、俺はまた探し続けなければならない。子どものうちに巡り逢えるとは限らない。俺は、彼女の夫の座を、他の男に譲るつもりはない。
 彼女に、人の魂を与えたのは、天帝だ。
 それなら、俺も人の魂を貰って、転生しよう。
 取引材料は、そうだな、あれがいい。ナーリアをこちらの世界に寄越したのも、きっとそのためなんだろうから。
 きっと天帝は、俺と彼女を引き合わせるだろう。必ず。たとえ、何度生まれ変わっても。
 俺は半身を、人の魂とした。
 必ず巡り逢えるように、運命に少しだけ細工して。
 頼んだよ、天帝。
 俺たちを引き合わせたのは、他でもない貴方なんだから。
 そして、もしできるのなら、俺の方を先に逝かせてくれ。彼女の最期には、必ず迎えに行くから。
                        【完】



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