なつこのはこ(創作のはこ)

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ショート・ショート

「花開く」その2

  (昨日のつづき)

 その日の仕事は、結局深夜まで続いた。
 圭太は、電話をするのを諦めると、週末に逢いたいとメールを打った。
 遅い時間のせいばかりではない。何から話せばいいのかわからなくて、それでメールに逃げたのだ。
 ともかく、真由からは、翌朝承諾メールが届いていて、圭太は胸を撫で下ろしたのだった。


 週末、圭太はどうにか接待を免除してもらって、真由と会った。
 桜を見に何度も訪れた公園。夏真っ盛りの今は、小さな池にホテイアオイが群生している。その池のほとり、木陰に置かれているベンチに、2人は座った。
「どうしてた?」
 圭太の言葉に、真由は俯いたまま、仕事に慣れるのが大変だった、と答えた。
 2人の間に、さよならの言葉があったわけではない。
 けれど、会わなくなって半年以上が経つ。相手に、新たな恋人ができていても、なんの不思議もなかった。言うべきことはたくさんあった筈なのに、圭太の口から出たのは、責めるような言葉だった。
「連絡してくれれば良かったのに」
 言ってしまってから、後悔した。真由は、こちらを見ようとはしない。やはり、智史の言う通りだったのだろうか。
 小さく息を吐いて、真由は答えた。
「…声を聞いたら、会いたくなるもの」
 抱きしめたかった。圭太がどうにかその気持ちを抑えたのは、まだ自分を待っていてくれるのかどうかがわからなかったからだ。
「会って欲しいって言ったら、圭太が困るし…」
 忙しいのは自分も同じだったと、真由は言葉を継いだ。
 圭太は、両手を握りしめた。
 目の前の池には、爽やかな薄紫の花が、水面いっぱいに咲いている。
 深呼吸して気持ちを落ち着かせると、圭太は口を開いた。
「今年の春、大学へ行ったんだ」
 その言葉を聞いた真由が、驚いたように圭太の横顔をみつめる。
「私も行ったの」
 圭太も驚いて、真由を見た。ようやく、2人の視線が合った。
「いつ?」
「4月の最初の土曜日」
 同じ日だった。
 互いに、会えるのではないかとどこかで期待しながら、大学を訪れていたことになる。
 けれど、2人が会うことはなかった。ほんの数時間の差で、2人は桜の木の下で会うことが出来なかったのだ。
 視線を外したのは、真由の方が先だった。
 桜が2人を結びつけている、そんな風に考えていたのは自分だけではないことを、圭太は思い出す。
 淋しげな横顔。そうさせたのは、自分だ。そう思ったら、たまらなかった。
 圭太は、真由を抱き寄せた。
「でも、会えたじゃないか。なんでもない大通りで」
 懐かしい真由の匂い。それを確かめながら、どうして半年も離れていられたんだろうと、圭太は思った。抱きしめる腕に、力が入った。
「俺は、真由が好きだ。今でもそれは変わらない」
 真由が顔を上げる。涙の浮かぶ笑顔は、確かに圭太をみつめていた。
「私もよ。好きになったのは、圭太だけだった」
 大学時代の4年間、いつだってみつめていたのは、お互い、ただ一人だけだった。
 ほっとしたような真由の目から、涙がこぼれ落ちる。圭太の中で、堰を切ったように愛おしさが溢れた。
 涙をそっと拭うと、真由に口づける。
 唇が、その温もりを覚えていた。あっという間に深くなっていく口づけに、圭太はぐっとこらえると、真由から離れた。
「やばい。止まらなくなりそうだ」
 その言葉に、真由が笑った。
 日の照りつける午後の公園には、散歩などしている酔狂な人間はいないのだが。
「ここは暑いから、涼しい場所へ移ろう」
 そう言って、圭太は立ち上がった。
 どこへ? と尋ねる真由の手を取る。
「俺の家」
 手の中の、ほっそりとした彼女の手を確かめるように握りしめた。
 照れたような真由の笑顔をみつめながら、プロポーズしよう、そう心に決めた圭太である。

                  【完】(テーマ:三部作/続編)




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