なつこのはこ(創作のはこ)

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ショート・ショート

「大事な日」その1(テーマ:三部作/3)

 
 桜の花びらが、私たちを出会わせてくれた。
 大学で、掲示板に見入っていたときのこと。後ろに人の気配を感じて振り返った。
 私の目に飛び込んできたのは、思いもかけない人の顔。
「髪に、桜の花びらがついていたから…」
 彼の方から声を掛けてくれた。私はそれだけで、とても嬉しかった。
 あの時、彼は何に驚いていたんだろう。


 今日は、第一志望の大学入試。
 なのに、朝から雪がちらついて、とっても寒い。
「おっはよう、真由。体調は万全?」
 そう言って、背中をどん、と叩いて渇を入れてくれたのは、友人の美咲。
「おはよう。見てのとおりよ。美咲は?」
「ちゃんと眠ったから大丈夫」
 駅から大学までの路を、たわいもないおしゃべりをしていたのは、緊張しないため。勉強のことなんか話していたら、上がっちゃいそうだもの。
 大学の門をくぐると、頑張ろうね、と言い合って美咲と別れた。同じ大学を受験するといっても、彼女とは受ける科が違うから。
 下見に来たときに覚えた校舎へ向かう途中、彼の姿をみつけた。
 良かった。やっぱり同じ大学だ。
 絶対に合格しなくちゃ。
 といっても、ここが第一志望なのかどうかも知らないのだけれど。
 駄目駄目。私にとって、今日は大事な日。源氏物語で有名な教授の講義、どうしても聞きたくてここを選んだんだもの。
 集中しよう。全力を出すために。


 試験を受けている間に、雪は止んで、うっすらと日が差していた。
 幸先いいかも。
「ようやく終わったね」
 明るい笑顔の美咲に、笑って頷く。2人とも、試験の出来は良かったみたい。
 駅から大学までの桜並木、2人で見られるといいね。
「お~い、圭太ぁ」
 私と美咲は、びっくりして声のする方を見た。
 幸い、呼ばれた当人は、私たちに背を向けていて、こちらには気付いていない。
「彼、多分ここが第一志望よ」
 史学科志望で、彼と同じ教室だったという美咲が言った。
 どうして、と尋ねたら、真剣な顔で試験を受けていたから、と答えが返ってきた。
 そんなんじゃわからないじゃない。
 肩先で切りそろえたショートの美咲を軽く睨み付けて、小さくため息をつく。
 本当にそうだったらいいのだけれど。
 夏期講習で、初めて会った(見かけた)圭太と呼ばれている人は、きっと私のことなんて知らない。
 時々、同じ授業を受けただけで、目が合ったことも、挨拶したこともないんだもの。
 その後も、予備校で姿を見かけたけれど、話しかけることはできなかった。
 でも、もし、同じ大学へ通うことになったら。
 声を交わすことがあるかもしれない。
 友だちになれるかもしれない。
 それから…。
 どうか、合格しますように。
 そして、願わくば、同じ大学へ通うことができますように。

(つづく)


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