なつこのはこ(創作のはこ)

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ショート・ショート

「止まっていた時間」その1(テーマ:三部作/2)

 
 彼女とは知らずに、声を掛けた。
 振り返った顔を見て、息が止まるほど驚いた。
 あれこれ考えていた言葉は、何一つ出てこなかったけれど、どれも必要なかった。
 桜の花びらが、2人を結びつけてくれたんだと思う。
 彼女と初めて会ったのは、大学受験の夏期講習の時だった。


 前回の模試は、さんざんだった。
 今回だって、部活を引退して間もないし、受験勉強なんてほとんどしていないから、絶望的だ。
「おい、圭太。何、暗い顔してんだよ」
 試験会場になっている予備校の教室。そんなところで呑気にパンをかじっている智史を見て、俺はため息をついた。
「結果わかってるのに、模試受けるのは虚しいじゃんか」
「部活やってたんだから、仕方ないだろ。深刻に考えんな。この夏休みで追いつけばいいんだよ」
 それも、ブルー入るんだよな。
 勉強しなきゃと焦る一方で、勉強漬けの毎日が続くのを想像して、うんざりもする。
「夏の模試でいい成績とって、安心した奴が入試に失敗するって話しもよく聞くじゃん。ま、受けることに意味があるってことで」
 それも、そうか。
 智史の言葉で、少しは気が楽になる。自分がどれくらい出来ないのかを知る機会だと思えば、いいんだよな。
 回りを見渡すと、始まったばかりの夏期講習で見かけた顔が何人もいる。
 窓際には、話しに夢中になっている女子高生が、3人。
 何度か、夏期講習で同じ授業を受けた。
 予備校へ来るのに化粧をしてくる奴もいるが、この3人はすっぴんだし、ごく普通の格好だ。いつも楽しそうに笑っていて、仲の良さが見ていてよくわかる。
 その中で、一番小柄な彼女の姿を、自然と目で追っていた。
 肩先でくるんとはねた柔らかそうな髪が、彼女の雰囲気に合っていて、可愛い、と思った。
 名前も知らない彼女。
 せめて制服を着ていてくれれば、どこの高校かがわかるのに。
 いやいや、違うだろ、俺。そんなことを考えてる場合じゃない。今日は、模試なんだから。


 この日の結果は、順位こそ下がったけれど、偏差値は春の模試とほとんど変わらなかった。受験者数が増えただけなんだと気付いたから、へこむこともなく、夏期講習を受け続けている。
 時々、彼女の姿を見かけた。
 女子って、いつも誰かと一緒にいるんだな。ショートヘアの子と、髪の長い子と、いつも3人一緒だ。
「…圭太? 次の教室、行くぞ」
 智史に呼ばれて、我に返った。
 そうだった。受験生なんだよ、俺は。何してるんだ。
 そう思っても、彼女の姿を、つい探している自分がいる。
 彼女を見かけた日は、なんだか勉強にも張り合いが出る、ような気がする。
 だったら、まぁ、いいか。

(つづく)


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