なつこのはこ(創作のはこ)

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ショート・ショート

「チョコのお返し」

 
 弁当の唐揚げをほおばりながら、結城が言った。
「藤沢、おまえ噂されてるぞ。チョコを受け取らない主義だって」
 ちらり、と俺を見ると、大仰にため息をつく。
「だから、いつも言ってるだろ。義理チョコくらい受け取れって」
 来週、入学後初のバレンタインデーがやってくる。
 うちの高校は、3分の1くらいが同中の奴らだ。
 俺がチョコを受け取らないのは知れ渡っていたから、そいつらの口から、広まってしまったんだろう。
「そこまでお返しにこだわる理由が、俺にはわからん。義理チョコなんだから、義理で返すだけだろうが」
 本命チョコすら義理で返せる奴に、わかってもらえなくてもいいさ。
「誰も想像できないよな。おまえみたいな奴が、本当に好きになった女にしか渡せないなんてさ」
 おまえが言うな、おまえが。いったい幾つもらってるんだよ、チョコレート。
「貰える物は貰う。貰ったら、返す。それだけさ」
 結城みたいに割り切れれば、楽なんだけどな。仕方ない。
 それより、男の奴らには反感買っただろうなぁ。チョコ貰える前提かよって。あ~あ。


 時折、男たちから冷たい視線を送られることはあっても、面と向かって嫌みを言われることもなく、今年もバレンタインデーはやってきた。
 噂のお陰か、義理チョコすら貰わずに済んだ俺は、ほっとしながら帰途についた。
 ところが。
 家の近くまできて、女子の一団をみつけてしまった。
 あっという間に取り囲まれて、その騒々しさに俺は閉口した。てんでに騒ぎ立てるからよくわからないけれど、どうせチョコを受け取れ、ってことなんだろう。
 げんなりした俺の前から、嵐のような一団が去ってゆく。
 その跡に残された彼女の姿を見て、俺は喉元まで出ていた断りの言葉を呑み込んだ。
 おずおずと包みを差し出したのは、隣のクラスの佐々木さんだった。
「藤沢君がチョコを受け取らないのは知ってるけど、でも、どうしても…」
 その包みが、突然目の前から消えた。
 驚いて彼女を見ると、包みをしっかり胸に抱え込んでいる。
 そして、所在なげに宙に浮いた俺の右手。なんだろう、これは。
「貰って、くれるの…?」
 不安そうだった表情に、期待が混ざり合う。
 焦った俺の脳裏に、あの日の記憶が甦る。入学当初の、佐々木さんの姿。彼女は、葉桜になった木をじっと見上げていた。
 桜は終わったのに、何をしているんだろうと気になった。
 彼女がいなくなった後、その木の下に立って、彼女がしていたように見上げてみた。
 小さなさくらんぼが、いくつも紅く色づいていた。
 その時から、なんとなく気になって彼女のことを見ていた。
 宙に浮いたままの自分の右手を眺めて、あぁこの子のことが好きなんだな、と俺は今更のように気付いたのだった。
 もう一度差し出された包みに、俺は満面の笑顔を返す。
「貰うよ。佐々木さんのチョコだから」
 嬉しそうに笑う彼女を見て、気付くの遅すぎだろ、と俺は自分に突っ込んだ。


 俺がチョコを受け取った話は、どうやら学校中で駆けめぐったらしい。
 そんなに驚くことだったんだろうか。
 弁当をほおばりながら、結城が言う。
「良かったな、彼女ができて。告白はできなかったけど?」
 そう言うと、にやりと笑う。
「初めて自分で買うお返しかぁ、楽しみだ」
 ほっとけ。
 俺は、一人ごちると、残りの弁当をかっ込んだのだった。
                                  【完】




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