なつこのはこ(創作のはこ)

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ショート・ショート

「2人の間に雪は降り積む」その3

 
「2人の間に雪は降り積む」その1


 久し振りの高木からの電話は、声が震えていた。
「麻衣ちゃんが、結婚する…」
 俺がいなくなって、半年も経たないうちに、彼女は知らない男と付き合い始めた。
 なんだ。
 俺への気持ちもそんなものか、そう思った。

 広げた書類のどこかで、携帯が鳴った。
 1年ぶりに聞く、着信音。消去するのを忘れてたんだな、俺。
「結婚するんだって? おめでとう」
 そんな言葉が聞きたかったんじゃない、と彼女は少し怒った声で言った。
「最後に、文句の一つくらい、言わせてもらおうと思って」
 結婚するんだろ。幸せなんだろ。何が文句だよ。
「何も言わずに姿を消して、それでお終いにしようとしたのね」
 知ってると思ったんだよ。転勤の事は伝えてあったし、高木に任せたんだ。
「さよならを言う価値もない女なんだと思い知らされた。今も、雪なんて大嫌いよ」
 雪。そっちも降ってるんだな。
 寒いのが嫌いだと、冬も嫌いだと、いつもそう言っていた。その冬のさ中に、俺は引っ越した。
「祐介くん。あなたが好きだった。最初から無理だとわかっていたけれど、2人で会ってる間だけは、幸せだったわ」
 2人でいても、どこかぎこちなかった。いつも、俺たちの間には、高木の影があったから。
 携帯の向こうで、彼女は黙り込んだ。
 あの頃のように。
 彼女は、俺の言葉を待った。俺が何も言わないのをわかっていながら、待っていた。
 小さくため息をつくと、彼女は言った。
「結婚を決めた以上、幸せになるわ。さようなら。あなたも幸せになってね」
 一拍おいて、俺は、あぁ、と答えた。
 携帯を切ろうと、耳から離した時、小さく彼女の声がした。
「…あなた以上に想える人なんていない」
 慌てて携帯を戻したが、既に切れていた。
 結婚するんだろ。幸せになるんだろ。なんだよ、最後の言葉は。

 今ならまだ、傷は浅い筈。
 そう、思ったんだ。あの時は。
 窓から見える街並みが、白く埋まっていく。
 2人の間を隔てる雪は、静かに降り積もる。何もかもを覆い尽くして。

                         【完】(テーマ:雪)


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