なつこのはこ(創作のはこ)

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「昔々のお話」

昔々のお話・6「時の流れ」その3

  昔々のお話・6「時の流れ」その1

(昨日のつづき)

「嘘をついて悪かったな」
 嫁入りと偽って、ナウラを集落から連れ出したのはカヤだ。もちろん、おばばと長同様、シュウに行き先を教えることはなかった。
「仕方ありません。こういうことなら」
「それにしても、よくここがわかったもんだ」
「この辺りまで来て、ようやくわかりましたよ。あなたが女と一緒に暮らしてるって、もの珍しそうに教えてくれましたから」
「…そうか」
 苦笑するカヤの顔を、シュウはじっとみつめた。
「チィを大切にしてくれて、ありがとう」
「おまえに礼を言われる筋合いではないな」
「いいえ。誤解されやすいチィが、新しい集落で馴染めるのかどうか、それだけが心配でした。今のチィを見ればわかります。ここで幸せに暮らしているのだと」
 そう言って、シュウはナウラに視線を移し、優しく微笑んだ。
「チィ。俺もあと、何年生きられるかわからない。会えて本当に良かった」
 白髪が混じり、皺の増えたシュウの顔。
 ナウラは嫌々というように首を横に振った。
 大きな目からこぼれ落ちる涙を拭ってやるのは、もう自分ではない。シュウは、淋しそうにその涙を眺めた。
「…さて。帰るか」
 その言葉に、ナウラは詰め寄った。
「どうして? せっかく会えたのに。話したいことはまだまだたくさんあるのに…」
 シュウは、子どもをなだめるように、頭を撫でる。
「馬に蹴られたくないから帰るよ。チィに逢えたから、それでいい。カヤのあんな顔も見られたしな」
 シュウはあっさりと立ち上がった。それを制するように、カヤは一足先に、外へ出ていった。
「シュウ…」
 ナウラが、広い胸にすがりつく。
「相変わらず泣き虫だな。そんな顔を見てると、昔に返った気がするよ」
 シュウは、ナウラを抱きしめる。
「元気でな」
「本当にもう会えないの?」
「見てのとおり、もう俺はおじいさんさ。会いに来るのは無理だろう」
 ナウラは昔よくしたように、間近でシュウの顔をじっとみつめた。
 今のシュウの顔を、目に焼き付けるように。決して忘れないように。
「チィ。愛してる。俺が愛したのは、生涯おまえだけだ」
 ナウラは黙って頷いた。
 シュウは、軽く口づけると、きりがないな、と呟いた。
 ナウラの手を取り、外へ出る。
 シュウが、ナウラの背をそっと押した。
 ナウラは後ろ髪引かれる思いで、カヤの隣へと並んだ。
「カヤ、チィを頼みます」
「あぁ」
 思い残すことはもうない。そんな清々しい笑顔を、シュウは浮かべた。
「じゃあな、チィ」
 その背に向かって、ナウラが叫ぶ。
「ありがとう、シュウ」
 シュウは振り返ることなく、右手を上げてひらひらと振った。
 その後ろ姿が見えなくなるまで、ナウラは見送っていた。
 姿が見えなくなると、涙をぽろぽろとこぼしながら、家の中へと走り去る。
 カヤは、後を追わなかった。
 今は、1人で泣きたいだろうから。
 道の先を見遣り、格好つけやがって、と独りごちる。
 これで、シュウはナウラにとって、生涯忘れることのできない男になってしまった。
 偶然シュウと出会ったとき、カヤは気付いた。あの男の生まれ変わりだと。天帝は処分した、と言っていたが、こちらの世界で人として生まれていたとは。
 それが、ナウラの近くだったことを、深い関係にあることを、天帝は知っているのだろうか。それとも、何か考えがあってのことなのか。
(ナウラが、いや、ナーリアが天へ還るまで、俺が見守り続けるさ)
 ナウラの寿命がどれくらいなのか、それはわからない。
 けれど、天人であるカヤにとって、人の寿命などいかに長命とはいえ、たいした長さではない。
 カヤは大きく息を吐くと、とりあえずナウラを慰めに行くか、と家の中へ入ったのだった。

                                【完】  


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