なつこのはこ(創作のはこ)

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「昔々のお話」

昔々のお話・6「時の流れ」その2

  (昨日のつづき)

 広い胸に抱きしめられて、ナウラはシュウの鼓動を聞いていた。
「懐かしい。シュウのにおいがする」
 年寄りのにおいじゃなくてか、と笑いながらシュウは言った。
「チィはあの頃のままだから、なんだか変な気分だな。娘でも抱きしめているような気がする」
 娘かぁ、と照れるナウラの額を、シュウが指でつつく。
 ふふっと笑うと、2人は互いの顔をみつめた。
「シュウは、格好良いおじさんになったね」
「おぅ。結構もてるんだぞ。チィが望んだ通り、俺の子は8人もいる。おまえが産んでくれた子は、今じゃ3人の子持ちだ」
 驚くナウラに、シュウが頷く。
「見た目は娘でも、チィはもうおばあちゃんだよ」
 そんなぁと、情けない声を出したとき、突然カルラが飛び込んできた。
「ナウラ、いい加減にしな、さ、い…。あら、お客さま?」
 出鼻をくじかれたカルラだったが、慌てて離れた2人の姿を見て、すぐに事情を察する。
 だましたわね、と独りごちり、にっこり笑うと、ごゆっくり、と言って出ていった。
 その様子に、カヤが何か言ったのだと気付いたナウラは、ため息をついた。自分では様子を見にくることができないから、カルラに邪魔をさせたのだ。
 一瞬だけ現れた美女を、唖然として見送っていたシュウだったが、思い出したように呟いた。
「…ここでは、ナウラって呼ばれてるんだな」
 その言葉に、ナウラは心臓を捕まれる思いがした。
「今の人と、仲が良いのか?」
「う、うん…」
 ナウラは、動揺していることを知られないよう、必死に気持ちを落ち着かせようとした。
「別の名前で呼ばれてたんじゃ、みつからない筈だ」
 そう言って、シュウは苦笑いを浮かべる。
「あれからずっと、チィの行方を捜していた。おばばも長も、どこへ行ったのか教えてくれなかったからな。それらしい集落へ出向いては、聞いて回っていたんだ」
 集落を出ようと言ってくれたシュウの手を、ナウラは取ることができなかった。それでも探してくれたのだと知って、ずっと自分を求めていてくれたのだと知って、胸を衝かれた。
「最近、ようやくおまえらしい女がいるとわかった。近くまで来たら、カヤと会ってさ。驚いてたよ。ここまで来たのならって、カヤが連れてきてくれたんだ。でも、そうか。ナウラか…」
 それが、自分の本当の名だと、シュウに告げたかった。
 けれど、それをしてどうなるというのだ。普通の人間と、力を持つ者。互いに相容れない、別々の世界で生きる2人なのに。
 シュウは、それが本当の名だとは知らずに、その名を口にした。それ以上を望んではいけなかった。
 それに今、自分の隣にはカヤがいる。何かを言える立場にはない。
 ナウラは、深く息を吐いた。気持ちを整えて、シュウの顔を、万感の思いを込めてみつめる。
 そんな様子に首を傾げながら、シュウはじっとみつめ返した。
「お母ちゃん」
 静けさを割って飛び込んできたのは、ナウラとカヤの、3歳になる男の子。その後をついて、カヤとカルラが現れる。
「悪い。どうしてもこいつが行くって聞かなくて」
 子を抱き上げながら、カヤが決まり悪そうに笑う。
「全く、今日に限ってどうしてこんなに聞き分けがないんだか」
 これは、カヤに嫌みを込めたカルラの言葉。
 その遣り取りに、ナウラは吹き出した。
 大人たちを不思議そうに見ている幼子の顔を覗き込んで、シュウは笑顔で尋ねる。
「チィとカヤの子?」
「おじいちゃん、誰?」
 おじいちゃん、か、とシュウは苦笑する。
「お母ちゃんの大事な人よ」
 当て付けるように答えるナウラに、素知らぬ顔をするカヤ。その隣で、カルラが必死に笑いをこらえている。そんな3人の様子を見て、さすがにシュウも気付いた。
 くっ、と笑うと、ナウラを愛しげにみつめた。
「大事にされてるんだな」
「そんなこともないけど…」
 相変わらず、からかわれてばかりの毎日である。半分は照れて、半分は不服そうに、ナウラはむくれた。
 シュウは、カヤに視線を移すと、にやりと笑う。
「でも、おまえが出て行ってから、カヤは集落の女たちを相手にしなくなったんだぞ」
「え?」
「他の集落でも同じらしい。あちこち聞きに行ったとき、女たちが文句を言ってたからな」
 驚いたナウラの視線から逃げるように、カヤがあさっての方を向く。
 強いて真面目な顔を作ったカルラは、しみじみと語った。
「何せ、赤子の頃からずっと見守ってきた相手だもの。大切よねぇ。それなのに、早々と鳶に油揚げをさらわれちゃって…」
 俺? と自分を指差したシュウは、ナウラと顔を見交わした。
 うるさい、と呟くカヤをちらりと見て、カルラは言葉を続ける。
「2人は男女の関係になるの、早かったのよね。山の中じゃ、どこに誰が潜んでるかわからないのよ。気を付けないと」
 えぇっと声を上げて、シュウとナウラが、カヤを見た。
 ばつが悪そうな顔をして、カヤがカルラを睨み付ける。
「さて、と。そろそろ行かなきゃ」
 言うだけ言ってしまうと、カルラは子どもを抱き上げて、さっさと出て行った。
 大きくため息をついたカヤだが、開き直ったようにナウラの隣へと座り込んだ。


(つづく)


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