なつこのはこ(創作のはこ)

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「昔々のお話」

昔々のお話・5「集落からの知らせ」その3

  (昨日のつづき)

 目を覚ますと、ナウラはカヤの膝の上で抱きしめられていた。
「目、覚めたか」
 身体がだるかった。重いだろうから退かなければと思ったが、動く気力がなかった。
「頭、痛い…」
「ゆっくり寝てろ。こうしててやるから」
 全身が暖かい気で包まれているようだった。ナウラは安心したように、目を閉じた。
 それからどのくらい眠っていたのだろう。
 次に目を覚ましたとき、辺りは夜のひんやりとした空気に包まれていた。
「頭はまだ、痛むか?」
「…もう、大丈夫」
 同じ姿勢のまま、ずっとこうしていてくれたのだろうか。きっともう、足はしびれて感覚がないに違いない。
「…ありがとう」
 そう言って離れようとしたナウラを、カヤは抱きとめる。
「たまには俺に甘えろ」
 ナウラは驚いた。我が儘を言って、相当甘えていると思っていたのに、カヤはそう思っていなかったのだろうか。
「ここへ来て、俺の前で泣いたの、初めてだろ。ツユチカの前では平気で泣くのにな」
 嫉妬、してくれているのだろうか。
 思ってもみなかった言葉に、ナウラはまじまじとカヤの顔をみつめた。
「…ここへ連れてきたのはカヤだから、気にすると思って」
「だからこそ、甘えればいい」
 甘えてるよ、充分。ナウラは口の中でそっと呟いた。
「もう、落ち着いたようだな」
 ナウラは、頷いた。
「あれこれ考えても、仕方ないと思って。受け入れるしかないんだから」
「そうだな」
 カヤは微笑んで、ナウラの頭をくしゃくしゃと撫でた。
 ふいに、子どもの頃、いつもそうされていたことを思い出す。
 カヤにまとわりつく子どもの中で、いつも自分は頭を撫でてもらった。抱っこしてもらってずるい、と他の子に言われていた。どうして忘れていたんだろう。ナウラは、目頭が熱くなって俯いた。
 それを、どう受け取ったのか、頭を抱き寄せられる。
「泣けばいい。親が死ねば、誰だって辛い」
 ナウラは、カヤが天人であることを知らない。
 長く生きているカヤにはもう、きっと親も兄弟も生きてはいないのだろうと思った。
「カヤも辛い?」
 その言葉にカヤは驚いて、俺が?と聞き返す。
「カヤはもっとたくさんの人の死を見てきたんでしょう」
「俺は男だから」
「男だって悲しいよ。辛いし、淋しいよ」
「まぁ、な…」
 長命であることを、普通の人間は羨む。死を怖れる生き物だから当然だ。
 だが、長命の者には、長命であるが故の哀しみが、ある。
「淋しい者同士、一緒になるか?」
 ナウラは、顔を上げた。
「からかってるわけじゃないぞ」
 いつもの茶化している表情ではない。カヤは真顔だった。
「本気?」
 あぁ、とカヤは頷いた。
 泣きたくなるほど優しくて、穏やかな笑顔だった。
「最初からそのつもりだった。女たちから聞いてるだろう。俺が一緒に暮らしたのは、おまえだけだ」
 ずっと待ち望んでいた言葉だった。
 ナウラの口から長い吐息が漏れた。その息と共に、肩肘はった思いが流れ出ていくような心地がした。
 ふと、思い出したことを聞いてみる。
「…どうして、私の名を知ってるの?」
 そこなのか、とカヤは苦笑する。無意識なのだろうが、ナウラはいい雰囲気になると、必ずそれをぶち壊す。でもまぁ、そのお陰で他の男が近寄れないのだから、よしとしよう。
「視えてしまうんだ。その人の、深く秘めた強い思いが。隠された本当の名が。この郷にはそんな奴が多い。だから、ここでは、本当の名を隠す意味がないんだ。俺の名前も、ツユチカも、それにカルラも、本当の名だ」
「他の人は私のことをチィって呼ぶわよ」
「俺がそう頼んだからな。それに、全員が視えるわけじゃない」
 ナウラはそれを知って、がっかりした。それでは、名問いの儀式など意味がない。
「でも、おまえにとっては大事な儀式だ」
 そうだろ、というように、カヤは微笑んだ。
 ナウラの目をじっとみつめると、厳かに口を開く。
「俺の名は、『伽耶』。チィ。おまえの名を教えてくれ」
 その言葉を聞いて、ナウラは胸がいっぱいになった。
「伽耶…。私の名は、『那宇羅』」
「那宇羅。愛してる」
「私も…」
 嬉しいのに、照れくさくて、言葉を濁したナウラに、カヤは肩を落とした。
「おまえな、こんな時くらいちゃんと言えよ」
 うなじを大きな手のひらで押さえられて、ナウラは否が応でもカヤの顔をみつめることになった。ほら、と促されても、言えないものは言えない。
 やっとあきらめたのか、カヤの顔が近付いてくる。ほっとしたように、ナウラは目を閉じようと、した。
 その瞬間、にやりとカヤが笑ったような気がして、目を見張った。
「…絶対に言わせてやる」
 え、と思う間に唇を塞がれる。
 驚いたままの開いた唇に、するりと舌が入ってきた。
「んんっ」
 息をする間もないほどの激しい口づけだった。
 集落の女たちの言葉を思い出す。
『口づけだってうまいじゃない。私、何度も意識が飛びそうになったわ』
 ずるい、とナウラは思った。星の数ほど女を相手にしてきたカヤにかなう筈がない。次第に意識が遠のき、もう手放す他はない、というところで、ようやく唇が離れた。
 ぼうっとしているナウラに、カヤは優しく微笑む。
 もう一度軽く口づけると、ナウラの額に、頬に、口づけを落としてゆく。
 その優しいぬくもりがくすぐったくて、ナウラが身体をよじると、熱い唇は顎から首筋へと移り、耳の後ろに深く口づけられた。
「あっ」
 それは、シュウだけが知るナウラの弱い部分だった。
「気持ちいい?」
 逃げようとするナウラの身体をしっかりと抱きとめたまま、カヤは同じ場所に何度も唇を落とす。同時に大きな手のひらが胸まで下りてきた。
 こらえようとしても、息が漏れてしまう。
「言ってごらん。愛してるって。ほら」
 きゅっと唇をひきしめたまま、嫌々というように首を横に振る。
「何が嫌? やめないでってこと?」
 殴ろうと振り上げた腕を、カヤにつかまれる。
「言うまでやめないよ。それとも、やめた方がいい?」
 やっぱりいじわるだ、と思った。自分の反応を楽しんでいて、余裕を見せているのが悔しい。
 だったら…。
「愛してる」
 カヤは顔を上げて、じっとナウラの顔をみつめた。あっさりと口にしたことで、少なくとも一矢報いたらしい、とわかったナウラは、満足げに笑った。
「1回くらいじゃ駄目」
 ふっと笑うと、カヤは顎に手をかけ、口づけを落とし続けた。
「もう言わない」
「駄~目」
 ナウラは、力強い腕から逃れようと試みたが、無駄なことだった。
「ふふん、夜はまだこれからさ」
 とことん甘い雰囲気からは遠い2人である。
 それでも、2人の声が聞こえなくなったのは、空がしらじらと明るくなり始める頃のことだった。

(つづく)


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