なつこのはこ(創作のはこ)

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「昔々のお話」

昔々のお話・5「集落からの知らせ」その2

  (昨日のつづき)

 郷の長が、結界の外にあるこの家を訪れることは余りない。
「話がある。ちょっといいかな」
 カヤに仕事の話かと思い、ナウラは外へ出ようとしたが、止められた。
「おまえに、話があるんだ」
 沈痛な面もちに、一体何があったのかと、ナウラは首を傾げた。
 その隣に、当然のような顔をして、カヤが座り込む。ナウラは不服そうに睨んだが、厳しい眼差しを向けられて、仕方なく長に向き直った。
 カヤに話を促され、長はためらいを振り切るようにして、口を開いた。
「おまえの母親が、死んだ」
 思いもかけない言葉に、ナウラは絶句する。
「半月ほど前のことだ。病のせいでな」
 半月前なら、カヤが集落へ行っていた筈だが、病気だったことなど聞いてはいない。
「…どうして、教えてくれなかったの」
 呟くような言葉に、カヤが答えた。
「知ってどうするんだ? 会いに行けないことくらい、おまえだってわかっているだろう」
 集落を出るときに、おばばから言われていた。決して戻ってきてはいけない、と。
「でもっ」
 闇にまぎれて、こっそりと様子を見に行けたかもしれない。遠くからでも、葬送を見送ることができたかもしれない、そうナウラは思うのだった。
 俯いたまま、微動だにしないナウラを、長は痛ましげにみつめた。
 この知らせを持ってきたのは、カヤと同じ仕事をしている別の男だ。
 カヤはもちろん、母親が病気で寝込んでいることは知っていた。教えたところで心配になるだけだし、こんなに早く逝ってしまうとは思ってもみなかった。もう少し長く滞在していれば、いち早く知らせてやれたのに、と詮無い後悔をした。
 泣くこともできずにいるナウラを、そっと抱き寄せる。
 その様子を見て、長は家を出ていった。
 カヤの大きな手のひらが、ゆっくりとナウラの背を撫でる。
 強ばっていた身体から、少しずつ力が抜けていき、ぐったりと広い胸にもたれかかった。
 見開いた大きな目から、一粒、また一粒と涙がこぼれ落ちる。
「この力のせいで、母さんの死に目に会えなかった…」
 力があるために、生まれ育った集落を出た。それはもう決定事項で、誰にも言ってはいけないことで、ナウラは一人で抱え込むしかなかった。
「どうしてこんな力が私にあるの? 力なんて要らない。要らないのに…」
 泣きながら、何度も何度もカヤの胸を叩き続けた。
 カヤに当たってもどうにもならないとわかっているのに、この思いを何かにぶつけなければ、気が変になりそうだった。
 ナウラの脳裏に、集落で暮らした日々が甦る。チィと呼ばれ、背の低さをからかわれながらも、皆に囲まれ、楽しい日々を過ごしていた。力さえなければ、あのまま一生を終えていた筈だった。
 その代わり、カヤと一緒に暮らすことはできなかった。
 その正反対の思いが、ナウラの心を引き裂こうとする。
 耐えきれずに、ナウラは号泣した。
 カヤは、しがみついてくるナウラを抱きしめて、背中を撫で続けた。
(おまえはナーリアの生まれ変わり。力を持って生まれてしまったのは、そのせいだ。人間として生まれたからには、母親から離すのは酷なことかと、様子を見ていたのが裏目に出たな。こんなことなら、赤子の時に連れてくるんだった)
 泣き崩れるナウラを見ているのは辛かった。
 カヤは、人間ではない。
 天界からやってきた天人である。
 そして、ナウラは、天界ではナーリアと呼ばれていた。
 天帝がどういうつもりで、人間界へと送り込んだのかはわからない。カルラの時とは違うのだ。
 泣き疲れたナウラが寝息を立て始める。
 まつげに残る涙をそっと拭いてやると、カヤは涙の痕が残る頬にそっと口づけた。
 人間として生まれた以上、業を背負って生きていかなければならない。
 ナウラが天へ還るその時まで、自分が見守り続けよう。そう心に決めたカヤであった。


(つづく)


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