なつこのはこ(創作のはこ)

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「昔々のお話」

昔々のお話・4「結界に守られた郷」その3

  (昨日のつづき)

  郷へ来てから急に冷え込んだ日の夕方、チィは熱を出して寝込んでしまった。これまでの疲れもあったのだろう。
 ずっと親切にしてくれた、長の娘の結婚祝いの宴が開かれる夜だったから、チィは残念に思いながら床についていた。
 風に乗って聞こえてくる宴の音に、耳をすましてみる。
「いいから寝てろ」
 目を閉じさせるように、カヤが大きな手を額に乗せた。
 手を冷やしていたのか、そのひんやりとした手のひらの重みが心地よく、やがてチィは寝息を立て始める。
 その姿をみつめながら、自分がいるときで良かったと、カヤはほっとするのだった。
 日がな一日、チィはとろとろと眠っていた。目を覚ますと、いつもカヤが心配そうにみつめている。そのことがとても心強くて、安心したように、また眠った。
 熱が下がるまでには、数日が必要だった。
 目を覚ますと、今日は気分が良い。辺りを見回したが、カヤの姿はなかった。仕事のために、郷を出ていってしまったのだろうか。
 取り残されたような気持ちになって、外へ出た。
 今、一人でいるのは辛かった。ツユチカに会いに行こう。そう考えたチィは、ふらふらとした足取りで歩き出す。
「そんな身体で、どこへ行くんだ」
 カヤが、釣り竿と籠を持って立っていた。
 その姿を見て、チィはほっとした。黙って出ていったのではなかったのだ。
 けれど、カヤがいなくて心細かったとは、照れくさくて言えなかった。ツユチカに会いに行こうと思ったことも言えなかった。
 散歩をしていただけだと答えると、一緒に来ると言う。
「別にいいわよ」
「そう言うな。おばばに頼まれてるしな。俺にも責任あるんだよ」
 チィは、その言葉に凍り付く。
 責任があるから自分の家に住まわせて、責任があるから看病をした。この男にとって、自分はただそれだけの存在でしかないのだと、そう思った。
「責任なんて、感じてくれなくていい」
 冷ややかに答えると、カヤの横を通り過ぎた。
 その足が止まったのは、ツユチカが歩いてくるのが見えたからだった。
 そんな視線の先を見て、カヤが顔を覗き込む。
「あいつに惚れた?」
 自嘲気味な表情を浮かべるカヤを、直視できずにうなだれる。
「…あんたに関係ない」
 確かに、ツユチカの子を産んでみたいと思ったことはある。
 それは、カヤを想う気持ちとは違うものだ。
 きびすを返そうとしたら、強い力で腕をつかまれた。
「関係ない、なんてことはない」
 怒ったようなその口調に、チィは驚いたようにカヤの顔をみつめた。険しい目でみつめられることに耐えられなくなり、チィは腕を振りきって逃げ出そうとした。
 その時だった。
「ナウラッ」
 カヤは、そう叫んだのである。
 チィは、本当の名を呼ばれて、棒立ちになった。
(どうして、私の名を知っているの?)
 おそるおそるカヤの顔を見ると、しまった、という表情で立ち尽くしている。
 本当の名を知る者は、両親とおばば、そして名問いの儀式をした相手だけ。
 それなのに、カヤは、チィの本当の名を知っていたのだ。
 チィの顔がみるみるうちに青ざめた。
 カヤの胸を両手でどん、と突き飛ばすと声を限りに叫ぶ。
「あんたなんか、大っ嫌いっ」
 ばたばたと駆けだしていくチィの後ろ姿を見て、カヤは頭をかかえた。
 力を持つ者は強い念を感じ取ってしまうため、本当の名を隠す意味がない。
 だから、この郷では、本当の名を呼び合うのだ。それをまだチィには告げていなかった。
「一体どうしたんだ」
 ツユチカが近付いてきて、カヤに尋ねる。
「やっかいなことになった」
 チィが名問いの儀式に憧れているのは知っている。
 だから、ちゃんとしてやろうと思っていたのが裏目に出たのだ。
 チィに関係ないと言われて、大人げないことだが、つい逆上した。
「優しくしないのが、いけないんだろ」
「言うなよ…」
「素直じゃないからなぁ、おまえは」
 そう言って、ツユチカは苦笑する。
 力のある赤子が生まれたと、いずれこの郷へ引き取ると、そう聞いてから十数年。
「大切な子じゃなかったのか?」
 言われなくともわかっている。
 生まれたときに、彼女の生まれ変わりだと気付いた。ずっと成長を見守ってきたのに、早々と男ができた。自分のものだったわけでもないのに、何故か取られたように思ってしまった。
「さっさと謝るんだな」
「そんな簡単にはいかないんだよ」
 しばらくは自分を避けて、事情を聞こうともしないだろう。
 自業自得とはいえ、カヤは大きなため息をついたのだった。

(つづく)


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