なつこのはこ(創作のはこ)

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit   

「昔々のお話」

昔々のお話・4「結界に守られた郷」その2

  (昨日のつづき)

 ただの案内人だと思っていたカヤ。
 そのカヤの家に、チィは暮らしている。
 一緒に暮らしていることで、郷の女たちからはいろいろと詮索された。
 外の集落を回る仕事だからほとんど家にはいないし、他にもいくつか家があると聞いている。何より、2人の間には何もないのだから、そんな詮索は煩わしいだけだった。
 朝の仕事を終えて、チィが家へ戻ると、久し振りにカヤが帰ってきていた。
「おかえり」
 笑顔で返事を促すカヤに、不承不承、ただいま、と答える。
 前にいた集落では、こういった習慣がなかったため、なんだか気恥ずかしい。
 満足そうに微笑む顔を見るのも、照れくさかった。
「ここには慣れたか?」
 そう尋ねるカヤは、少し疲れているようだ。
 最後の集落を出立したのは、早朝だった筈。早く眠りたいだろうに、自分のことを気遣ってくれているのだと、チィは嬉しくなった。
 ここへ来るまではあれこれと心配したが、郷の人たちは、外の人間を受け入れることに慣れているためか、新入りにも親切だった。初日に同世代の長の娘と仲良くなり、いろいろ教わっている。
 そんな答えを聞いて、良かったな、とカヤは安心したように笑った。
 無防備と言って良いほどのくつろいだ表情は、ここへ来るまでは知らなかったものだ。外へ出ているときは、この男でも、緊張していたのだろう。これまで、呑気そうに見えただけに意外だった。
「…今日は、からかわないんだ」
 ん? と不思議そうな顔をするカヤ。
「すぐ私のこと、子ども扱いするじゃない」
「俺からしたら、子どもだよ」
 確かに、チィが子どもの頃、カヤ兄ちゃん、ではなく、カヤのおじさん、と呼んでいた。父親と同世代だと思っていたのだ。
「じゃあ、おじさんだ」
「う~ん、年から言えばねぇ。でも、見た目は変わらない」
 おばばから聞いたことがある。おばばが若い頃と、カヤの姿は少しも変わらないのだと。一体、どのくらい生きているのだろう、とチィは思った。
「そっちこそ、今日はやけに素直じゃん」
 いつもこんな風に接してくれれば、チィも普通に話せるのだ。
 いい機会かもしれない、と思った。ずっと聞いてみたかったことがある。
「…力を持つ人間は、長く生きるんだよね」
 おばばは言っていた。
 自分は、カヤと同じ長命の種族なのだと。
 チィの持つ力は、他人に影響を与えるものではない。わかりやすく言うと、チィの中には地図があるのだ。山の中でも方角を察知することができ、決して道に迷わない。道なき道を歩いていっても、必ず行きたい場所へ行くことができる。
 そして、力を持つ人間の多くが持つ、相手の強い念を受け取ってしまう力。心の中を読める者は少ないが、強い思いはその人間を薄く取り巻いているから、それを感じ取ってしまうのだ。
 自分にそんな力があるのを知ったのも、力がどういうものなのかを知ったのも、ここへ来る直前のこと。   
「私も、長生きするの?」
「たぶん」
 チィの瞳が、不安に揺れる。
「どれくらい?」
 当時の平均寿命は、50歳にすら届かない。70近いおばばは、充分長寿だった。
「人によって違うからな。それはわからない。100年以上か、200年か、それともそれ以上か…」
 それは想像もつかないほど、長い長い年数だった。
 そんな長い時を、たった一人で生きてゆく。
 チィは、その寒々とした光景にぞっとした。
「だから、誰かと一緒にいたいと思うんだろうな」
 落ち着いた、穏やかな声だった。
 こんな風に微笑むと、精悍な顔立ちが優しくなって、目が離せなくなる。
 チィは、カヤの顔をぼんやりとみつめたまま考え込んだ。
 カヤには決まった相手がいるのだろうか。
 あちこちの集落に女たちがいるとはいえ、そんな相手がいるようには思えない。この郷では前にいた集落とは違い、ほとんどの者が家族の単位で暮らしているというのに、今一緒にいるのは、何の関係もない自分なのだ。
 そんなことを考えたのが顔に出ていたのだろうか。にやりと笑うとカヤが言った。
「おまえにしようかなぁ。どうせ一緒に暮らしてるし」
 そのあまりにも軽い口調に、チィは落胆し、憤りを覚えた。
「こっちから願い下げよっ」
 そう叫ぶと、家を飛び出した。
(人を馬鹿にするにもほどがある)
 所詮自分は、大勢の女の中の一人でしかない。それが何よりも悔しかった。


 怒りにまかせて歩くうち、いつの間にか丘の見える場所までやって来ていた。
 丘の上には、毎日のようにツユチカがいる。
 初めてその姿を見たとき、神々しいまでの美しさに息を呑んだ。こんなにも美しい男を見たことはなかった。
 最初の時からいつも、彼はチィの姿をみつけると、優しい笑顔を向けてくれる。
 淋しいとき、悲しいとき、チィはツユチカに会うため、ここへやって来た。ほとんど郷にいないカヤよりも、特に話すわけでもないツユチカの笑顔に癒されていたのだ。
 今日もツユチカは、さらさらの金の髪をなびかせて立っていた。
 すぐに気付いて、優しく微笑んでくれる。
 チィはほっと息をつくと、晴れやかな表情で笑い返した。
 郷の女たちの中で、ツユチカとカヤは人気を二分している。自分は絶対ツユチカ派だわ、とチィはそう思うのだった。

(つづく)


*Edit ▽TB[0]▽CO[0]   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。