なつこのはこ(創作のはこ)

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「昔々のお話」

昔々のお話・2「大勢の中の一人」その1

  (これは、飛鳥に統一国家ができる、ずっと以前のお話です。
 昔々のお話・1「名を教えて」

 女たちに混じって、チィは川辺で休んでいた。
 川の水は冷たく、洗濯を終えると指がかじかんでしまう。陽差しでほのかに温まった石で、手を温めていたのだ。
 隣に、男が腰を下ろしたのは知っていた。
 それが、誰なのかも。
 でも、チィは、わざと知らん顔をしていた。
 その男を、子どもの頃は、カヤのおじさんと呼んでいた。色々なものを背負って集落へやってくるこの男は、子どもにとっては良い遊び相手だった。
 あの頃から、カヤは少しも年を取っていないように見える。
 いつまでも青年のように若々しく、見目も良い。背が高くて、人当たりもいいから、人気は絶大だ。集落の女たちで、カヤと関係のない女はいないとまで言われている。もちろんチィにとっては、今でも『カヤのおじさん』でしかない。
 それなのに、最近やたらと視界に入ってくるこの男が、うっとうしくて仕方がなかった。
 女たちがこちらを見てひそひそと話している。
 ついに我慢できなくなって、チィは立ち上がった。
 その手を、いきなりつかまれる。
「行こうか」
 チィは、相手の顔を睨み付けると、思い切り手を振りほどいた。
「どういうつもりっ」
 そんな反応を面白がるように、カヤは笑顔で答える。
「どういうって…、他にある?」
 チィは、一瞬言葉に詰まった。
 が、すぐに洗濯物を抱えると、猛然とその場を立ち去ったのだった。


 信じられない。
 チィは走りながら、この言葉を繰り返す。
「どうしたんだよ」
 もの凄い勢いで集落へ入っていこうとしたチィの腕を、シュウが捕まえる。呆れたようなその表情に、チィは思わず感情をぶつけていた。
「なんなの、あのカヤって男は。昼間っから、女誘うだなんて、信じられないっ」
「そういう男じゃん、あいつは」
「だって、だって、相手は私だよ」
 さっとシュウの顔色が変わるのを見て、さすがにチィもしまったと気付く。
「だ、大丈夫。ちゃんと断ったから」
 そうか、と答えただけで、シュウは山へ向かって歩いていった。
 その表情が曇っていたのを、深く考えることもせず、翳りのある男って素敵だなぁと、チィは呑気に思うのだった。


 その夜、チィは女たちに囲まれた。
 昼間、カヤの誘いを断ったことは、あっという間に知れ渡っている。女たちは皆、どうしてカヤの誘いを断るのかが不思議でならないようだった。
「チィはシュウじゃなくちゃ駄目なの?」
 そんなことはない。シュウが余りにも身近な存在だっただけだ。他に、いいと思える男がいなかっただけだ。
 子どもの頃はともかく、大人になってからのカヤの印象はあまり良くない。顔を合わせれば、からかってくるし、女の腰を抱き寄せながら、意味深長な笑みを浮かべて、こちらに視線を送ってくる。
 それが何とも人を馬鹿にした態度で、チィはその度に腹を立てていた。
 隣にいた若い女が、うっとりと目を閉じる。
「あの声で囁かれたら、とろけそうになるわよ」
「意外と筋肉付いてるのよね。ぎゅって抱きしめられると、もうたまらない」
 カヤという男は、何か不思議な力を持っているのだという噂もあったが、女たちにとっては、見たことのない力よりも、カヤの子を産みたいという気持ちの方が強かった。
「あら、口づけだってうまいじゃない。私、何度も意識が飛びそうになったわ」
 いつの間にか、女たちはカヤの話で盛り上がっている。
 1人取り残されたチィは、他人事のように女たちを眺めていた。筈、だった。
(所詮は大勢の女たちの1人じゃない。そんなの、絶対に嫌)
 チィは唖然とした。まるで特別でいたいとでも言っているような自分の言葉だ。
(相手はカヤよ。どうしちゃったの? 私)
 身体がかぁっと熱くなる。
 女たちのひときわ大きな笑い声が響いた。チィは、気付かれぬよう、そっとその場を離れた。
 自然と、足がおばばの家へ向かった。
 集落には、長の家、男たちの暮らす家、女たちの暮らす家、それからおばばの家が別々に建てられている。おばばが暮らす家は、清浄な空気に包まれていて、とても居心地がいいのだ。
 悲しいとき、辛いとき、折りにふれて、おばばの元を訪れた。ただ黙ってそばにいてくれる、それだけなのに、おばばのそばはあったかくて、なんだか素直になれる気がする。
「チィか。どうした」
「うん…」
 おばばは、小さく笑うと、手招きした。チィが近付くと、骨張った手で、ふわりと抱きしめてくれる。
「おばば。私、変」
 確かにシュウは特別な男だったけれど、名問いの儀式をしてくれるならシュウがいいなぁと思ったけれど、一生をシュウと共に暮らすことには、何故か実感が湧かなかった。シュウが他の女を抱いたとしても平気だろうし、自分が他の男と寝ることだってあるとも思う。
 それなのに、カヤが相手だと、他の女たちと一緒にされるのは我慢がならないのだ。
 独占したいわけではない。カヤが他の女を抱いても、別にかまわないと思う。第一、そんな女など、他の集落も合わせたら、星の数ほどいるだろう。
「惚れたな、あの男に」
 おばばはそう言うが、チィには納得できなかった。
「今にわかる」
 優しく温かい手で、おばばが背中を撫でてくれる。
 その温もりに眠気を誘われ、いつしか寝息を立て始めた。
「真実はいずれ知れるものじゃ。シュウにも、おまえにもな」
 おばばは、愛しげにみつめると、そっとチィに衣をかけてやった。

(つづく)


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