なつこのはこ(創作のはこ)

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「昔々のお話」

昔々のお話・1「名を教えて」その1

  (これは、飛鳥に統一国家ができる、ずっと以前のお話です)

 重い水瓶を抱えて、チィは息をついた。
 熱っぽい身体を押して、当番の水汲みをしたのは意地があったから。
 ただでさえ、身体が小さくて力仕事は無理だと思われている。少しくらい不調だからといって、仕事ができないとは言いたくなかった。
 それに、チィだけが知る、秘密の泉から汲んでくる水は美味しいと評判が良かったから、今日も山の中へと入ったのだ。
 それでも、やっぱりやめた方が良かったかもしれない。重い水瓶を抱えながら、少し休もうと足を止めた。
 その時後ろから、重い水瓶をひょいと奪っていった男がいた。
「だから言ったろ。無理するなって」
 幼なじみのシュウだ。
 今頃は他の男たちと狩りをしている筈なのに、水瓶を片手で抱えて笑っている。
 今朝、熱があるのに気付いたのは、シュウだけだった。集落を出る時、声をかけてくれたのに無視をした。嬉しいけれど、チィにはチィなりの意地がある。
「狩りはどうしたのよ」
 素直にありがとうと言わないチィを抱き寄せると、シュウはおでこに口づける。
(こんなに熱があるくせに。俺の心配より、自分のことだろ)
 狩りの途中でいなくなったら、後で何を言われることか。チィが心配しているのは、そのことだった。
「大丈夫だよ。うまくやるから。寒くなって獲物が減ったから、つい多めに捕まえちゃって、それで睨まれただけさ」
「あいつらなんかに気を遣うことないのに」
 狩りの巧さを見せつけてやればいいと、チィは言う。
 けれど、シュウには目立ちたくない理由があった。
「睨まれて得することなんかないだろ。うまく付き合っていくためにやってるだけさ」
 肩で息をするチィに手を貸しながら、二人は山を下りる。
 集落が近付き、シュウは水瓶を差し出した。
「ありがと…」
 重い水瓶を抱えてふらふらと帰っていくチィの姿を、シュウは木陰からみつめ続けていた。おばばに声をかけられたのを見届けて、ほっとしたようにその場を離れる。
 その姿をじっと見ていた男の影に、さすがのシュウも気付くことはなかった。


 身体が小さいから、チィ。
 シュウはその呼び名を気に入っていたが、本人は相当不本意なようだ。
「よぅ、チィ。相変わらず、ちっせぇな」
 夕食後、若い男たちは酒を飲んでいた。そこへ通りかかったチィが、酒の肴とからかわれる。他の娘なら、無視するか、べそをかいて走り去るが、チィは仕事を放り出すと、その前で仁王立ちになった。
「うるさいっ。小さいって言うなっ」
 近くにいた女たちが、小声で囁き合う。1人の女が、そっと輪から外れた。
 15歳になっても、見た目はまるで子どもだったから、ずっと男たちの眼中にはなかったのだ。それが、子を産んで見る目が変わったのだろう。
 1人の男が立ち上がり、近付いた。チィの背丈は、男の肩までしかない。
 男はチィの肩に腕を乗せると、もう一方の手で顎に手をかけ仰向かせた。
「小さくても一人前ってか。チィが、ねぇ」
 酔った男がにやにやと笑って、顔を近づけた。やめときな、と年上の女に言われても、どこ吹く風と聞き流す。
 間近で酒臭い息をかけられて、チィは男を睨んだ。
「子どもを産んだら、一人前の女でしょ」
「本当にチィが産んだのかぁ?」
 男たちがはやし立てる中、チィが言い返そうとしたその時。
「やめろっ」
 顎にかけられた手を払いのけて、2人の間に割って入った男がいる。 
「おっと、シュウのお出ましだ」
「退散退散」
 さっと蜘蛛の子を散らすように、皆、逃げていく。
 その後ろ姿を呆れたようにみつめて、年輩の女たちが馬鹿だねぇ、と言い合った。
 若手の中で、狩りの腕は誰もシュウにはかなわないのだ。途中で姿を消していても、ちゃんと獲物を背負って現れる。結果さえ出せばいいのか、とは、結果を出せない彼らに言える筈もない。
 見せつけるように抱き寄せると、シュウは耳元へ口を近づけた。
「チィも相手にしなきゃいいのに」
「だって、悔しいんだもの。人のこと馬鹿にして」
 子どもを産んだ女は綺麗になる。男たちがからかうのは、チィに興味があるからだ。本人がそれに気付いていないのが、シュウには救いだった。
 集落を定期的に訪れる他の男たちにも、注意が必要だ。特にカヤという男。この集落で関係のない女はいないとまで言われている。今のところは、チィの方に全く興味がないようだから安心だが、それもいつどうなるかはわからない。
 腕の中から見上げてくるチィの顔を、愛おしげにみつめる。
 からかってくる男たちに平気で言い返しておきながら、シュウの腕の中では悔しいと言って泣く。そんな姿を知るのは、シュウだけだ。
「いつものところで待ってる」
 チィの髪をくしゃっと触る。
 頭に触られることを嫌がる彼女だが、シュウだけは別だ。
 照れたように笑うと、後でね、と答えて女たちの方へ駆けていった。

(つづく)




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