なつこのはこ(創作のはこ)

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit   

ショート・ショート

「戻り橋」 (テーマ:もみじ)

   町の外れにある、古びた石の橋。
 山向こうの隣町へ続く道だけれど、昔の細い道だから、あまり通る人はいない。
 それなのにやって来たのは、文化祭に出品する絵を描くため。
 ここ、穴場なのよね。
 紅葉をバックに、古い石の橋。
 今年は、絶対にこれを描こうと決めてたんだ。


 思った通り、紅葉が色づき始めて、とても綺麗。
 私は、早速スケッチを始めた。
 石の橋は、ところどころ苔むしていて、いい感じ。
 この橋、戻り橋って呼ばれていたんだって。おばあちゃんが、そう言ってた。昔は、この道しかなくて、出掛けていく人の無事を祈って、そう呼んだらしい。
 でも、本当の名前はなんだろう。
 鉛筆を置くと、私は橋に近付いた。
 手で、泥や汚れを落とすと、どうにか文字らしきものが見えた。
「も、…と?、り、はし?」
 なぁんだ。そのままじゃない。本当は違うけれど、そう呼ばれてたんだっていう方が、ロマンティックだったのにな。
 そう。例えば。
 こんな風に、手を振るの。愛する人を見送って。
 彼は、姿が見えなくなる曲がり角で立ち止まり、手を振り返してくれるのよ。
 赤く燃える紅葉の山道で。
 ほら、あんな風に。
 …って、誰? あの男の人。
 でも、どこかで会ったこと、あるような気がする。
 まさか。だって、時代劇みたいな格好してるんだよ。ちょんまげだよ。もしかしたら、怪しい人かも。
 そう思って逃げようとした私の足は、何故だか動かなかった。
 どういうこと?
 なんで涙まで出てくるの?
 私の体、どうしちゃったのよ。
 そう思ったら、急に強い悲しみが襲ってきた。それは立っていられないほどで、本当は驚いているのに、私は座り込んで泣きじゃくっていた。
「泣くなよ。行けなくなるじゃないか」
 顔を上げると、さっきの男の人が、困った表情で私をみつめていた。
 その顔を見たら、懐かしくって、悲しくって、また、涙が出てきた。
「泣き虫」
 そう言って、抱きしめてくれる。
 不思議と、嫌な感じはしなかった。
 それに、知ってる。
 この人のにおい。この胸の中にいる、安心感と温かさ。
「必ず戻ってくるから。心配するな」
 嘘だ。
 戻ってこられる筈がない。
 戦さに行って、帰ってきた人なんかいないのだから。
 あぁ、不安で胸が押しつぶされそう。
 この人は、私の夫なんだと思った。どうしてかはわからないけれど、そう思った。
 だって、この人がいなくなることが、こんなにも辛いんだもの。
 その時、私の脳裏にある光景が浮かんだ。
 稲刈りが終わって、山の紅葉が色づいた頃、大きな戦があるからと、殿様から呼び出しがあった。村から3人。その内の1人が、この人。
「行かないわけにはいかない。村の代表なんだから」
 だから、悲しいんだ。もう二度と会えないとわかっているから、こんなにも涙が出るんだ。
「もし死ぬようなことがあっても、魂だけはおまえのところへ戻ってくる」
「駄目よ、そんなのっ」
 思わず叫んでいた。
 魂だけ? 幽霊になって帰ってきたって、見えないかもしれないじゃない。私、今まで一度も幽霊なんて見たことないんだから。
 男の人は、びっくりしたように私をみつめた後、笑い出した。
「変な奴。俺、結構、格好いいこと言ったつもりだったのに」
「絶対、生きて帰ってこなくちゃ駄目。ここは戻り橋なんだからね。必ず戻ってこれるんだから」
「わかった、わかった。必ず生きて戻るから」
 そう言って、男の人は橋を渡り、曲がり角で手を振り返すと、行ってしまった。
 燃えるような紅葉で埋め尽くされた、山の向こうへと。


 なんだか、体がだるい。
 泣いたからかな。
 ぼんやりと立ち尽くしていたら、向こうに人影が見えた。
 さっきの人が戻ってきたんだろうか。
「真紀? どうしたんだよ、こんなところで」
 目の前にいる人を認識するまで、ほんの少し時間がかかった。
「どうした? なんかあったのか?」
 心配そうに覗き込む顔は、幼なじみで恋人の直人。
 朝、家の前であったばかりなのに、なんだかとても懐かしい気がする。
「ま、真紀?」
 思わず抱きついていた。
 直人のにおいだったんだ。さっきの男の人のにおい。
「…戻ってきたんだ」
「何言ってんだよ。用事が済めば、帰ってくるだろ」
 そうだね。
 でも、戻ってこられない人もいるんだよ。
 あの男の人は、戻ってきたんだろうか。
 直人の肩越しに、赤く色づいた紅葉が見える。
 さっきまで、あんなに燃えるような紅葉だったのに。
「そういえばさ、この橋が見えたとき、着物を着た女の人が立ってたんだ。すごく懐かしくて、すごく嬉しかった。あれ、なんだったんだろう。誰なのかと思ったら、そこに真紀がいた。着物、なんて着てないよな。いつものデニムだもんな」
「眼鏡、新しくした方がいいんじゃない?」
 そうかなぁ、と割り切れない顔をして直人が答えた。
 ほんと、なんだったんだろう。
 うんと昔に、ここに住んでた人たちなのかな。
 でも、良かった。
 あの男の人、戻ってきたんだ。生きて、奥さんのところへ帰ってきたんだね。
「もうすぐ日が落ちるぞ。帰ろうぜ」
 そうだね。帰ろう。
 待っててくれる人がいる、自分の家へ。直人と手をつないで。

                           【完】 (テーマ:もみじ)





*Edit ▽TB[0]▽CO[0]   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。