なつこのはこ(創作のはこ)

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ショート・ショート

「春の訪れ」(「風」Part.2)

  窓を開けると、穏やかで暖かい風が頬を撫でた。
「ね、春が来たでしょう?」
そう言って無邪気に笑う妻の顔に、俺は目を細めた。
周りの反対を押し切って、ようやく一緒になれた。
病弱だろうと、ほとんどをベッドの上で過ごそうと、そんなことは関係ない。領主の立場などどうでもいい。
俺の妻は、彼女だけだ。
「何故、わかるんだい?」
春の訪れを、誰よりも早く一番先に知っている彼女。
ふふっと微笑むと、秘密、と小さく答えた。
その楽しげな姿に、少しだけむっとした。
「いつかあなたにもわかるわ、きっと」
俺をなだめるように、頬にキスをくれる。
壊してしまわないよう、そっと抱きしめた。
腕の中に感じる彼女の温もりが、俺を幸せな気分にさせるんだ。
愛しくてたまらない。俺だけのフラウ。


「今年もまた、会えたわ」
フラウはまだ熱があるのに、押して起きあがると、俺に窓を開けさせた。
思ったよりも温かな風が、部屋の中を新鮮な空気に入れ替える。
「ほら、あそこ」
部屋には、俺と彼女の二人きりだ。熱に浮かされてでもいるのだろうか。
訝しげにみつめた先には、柔らかな金色の髪をした少年が立っていた。
全く気配がしなかった。
「誰だ」
素早く剣に手を伸ばす。
瞬間、ふわりと宙に浮かんだ少年は、小馬鹿にしたように俺をみつめた。
「物騒だな」
俺は、ぽかんと口を開けた。
「彼のお蔭で、春の訪れを一番に知ることができるのよ」
久し振りに聞く、妻の明るい声に、俺はようやく剣を下ろした。
少年はふわりと地に舞い降りると、手を腰に当てて、横柄に言った。
「フラウの頼みだからな。特別に、おまえにも姿を見せたんだ」
その高飛車な物言いよりも、彼女を笑顔にさせたことに腹が立っていた。
「はっ、嫉妬か? 小さい男だな」
「うるさい」
彼女は、自分を足手まといだと思っている。俺に世継ぎができないのは、自分がいるからだと思い込んでいるのだ。
そうじゃないと、たとえおまえがいなくなっても、俺は他の女などいらないのだと、何度言い聞かせても、フラウは納得しなかった。
この病室にまで押し掛ける、不躾な将軍たちのせいで、病気は一層ひどくなり、彼女の明るい声を聞くことはほとんどなくなっていた。
それなのに、こんな得体の知れない奴が、彼女を笑顔にさせるだなんて。
妙に大人びた、呆れたような顔をして、少年は言った。
「また来るよ。この男がいない時に」
「なんだとっ」
つかみかかった手の先で、小さなつむじ風が起こったかと思うと、少年の姿は消えていた。
呆気にとられる俺に、彼女はくすくすと笑った。
「春風の精霊なのよ、彼は」
いつだって彼女が一番先に春の訪れを知るのは、あいつが来るからなのか。
俺は憮然としながらも、フラウの笑顔に免じて、あいつを許してやることにしたのだった。


布陣が終わったことを、隣に控える将軍が告げた。
敵は、この丘の向こうにいる。
「奥方さまのことは、お忘れ下さい」
この闘いに、勝ち目はない。
将軍に言われなくとも、他のことを考えて戦う余裕などないことはわかっている。
だが、俺が死んだ後、残されるフラウが気がかりだった。
その時、背後から一陣の風が吹いたかと思うと、彼女の声がした。
驚く俺の目に映ったのは、あの時の少年だった。
彼女の最期の言葉。
もう、思い残すことは、何もない。
悲しみをぐっとこらえると、胸の奥へとしまい込む。
俺は、手を挙げると、高らかに叫んだ。
「出陣!」
                                           【完】



*Edit ▽TB[0]▽CO[2]   

~ Comment ~

いいなぁ、こういう二人。 

 彼の想いと彼女、そして精霊。とっても素敵です。
 こういう続編、大好き~

(^_^)v 

楽しんでいただけたようで、嬉しいです♪
続編を書くのは初めてなので、どこまで書き込めばいいのかな、と試行錯誤しながらの作業でした。
でも、書いてる本人も楽しかったぁ。
何より、洋物を書くのが初めてだったのよね~。
いろいろ苦労しました。
それだけ、愛着のある作品になったかも。
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