なつこのはこ(創作のはこ)

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ショート・ショート

「風」

  コミュニティの月イチ発表会・4月度は、いろいろと忙しくて参加できませんでした。残念。
とはいえ、勉強のために作ってみました。
一応、皆様の作品を読む前に作ったのですが、お題提供者の方と視点が同じで嬉しくもあり。少しかぶっている(?)かもしれませんが、せっかくだから載せてみます。

 「風」

 柔らかな新緑の丘を、駆け抜ける。
 急げ。急げ。
 人の目には止まらぬ早さで。
 いくつもの丘を通り過ぎる。
 早く。もっと早く。

 ようやく視線の先に、布陣を終えた一軍が見えてきた。
 その中央には、銀の甲冑に身を包み、凛とした姿で白馬にまたがる領主がいる。
 あの男だ。
 騎士の間を駆け抜けると、旗がばたばたと音を立てた。
 よろけた旗持ちを後目に、まっすぐ男の元へと向かう。
『私のことは心配しないで。これからもずっと、あなたのことを愛しています』
 伝言を届けると、宙に浮いて、男を見下ろす。
 男は、私の姿を見据えると、小さな声で尋ねた。
「フラウは逝ったのか…」
 私は、頷いた。
 男の顔が、悲しみにゆがむ。
 隣に控える将軍が、不審気に男の視線を追う。
 おまえになど見えるものか。
 心の中で毒づいて、もっと高く飛び上がった。

「出陣!」
 男は手を挙げると、高らかに叫んだ。
 悲しみを胸の奥に隠して。
 柔らかな新緑の続くそこは、一瞬の後、戦場と化した。

 病弱で、ほとんどをベッドの上で過ごした美しく優しい人。
 彼女は、愛する人の足手まといになることを、いつも気にかけていた。男は、そんなことは少しも気にしていなかったのに。愛する人を妻に迎えて、とても喜んでいたのに。
 彼女の最期の願いを聞いていたのは、私だけだった。
「風が暖かいわ。もう、春なのね。ねぇ、あなたなら、あの人に会いに行くことができるかしら。私の代わりに会いに行ってはくれないかしら」
 いつも穏やかだった彼女。春になると、彼女に会えるのが楽しみだった。
 私は、駆け抜けた。
 春の訪れを告げるためではなく、彼女の言葉を伝えるために。

 男は、妻を亡くした悲しみで、自暴自棄になって闘った。
 男は、まさかの勝利を得、そして、広大な地の王となった。
 彼の血を受け継ぐ子はなく、男の死後、王国は急速に衰えていった。
 ただ一度、春の女神から叱られた、あの年の出来事を、いまだ忘れることはできない。
                                         【完】



    コミュニティ・「月イチ発表会」4月 お題提供:遠山ひよさん (青いひきだし




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